週刊金曜日  2/18   1365号   「言葉の広場」より

  

 狭山事件、鑑定人尋問請求へ    佐々木寛治
 狭山事件を知ったのは学生時代で、「狭山」の読みがわからないくらい疎かったが、真相を訴えるビラ配りや署名・カンパ活動に加わり、東京の集会にも行った。それから40数年、冤罪を晴らす取り組みは継続し、私もその輪の中にある。
 第3次再審は請求してから16年、裁判官と検察官と弁護士の三者の進行協議は49回、提出した新証拠は246点になる。中でも自白によって、石川一雄さん宅の鴨居から3度目の家宅捜索の際に発見されたという被害者の万年筆は別物であることを科学的に証明した「下山鑑定」は決定的と言える。弁護団は今春にも鑑定人尋問を請求するが、過去2度は事実調べがないままに棄却され、楽観はできない。
 83歳の石川一雄さんは、体調管理を最優先し、「修行僧」のようだと言われるほど食べ物も厳しく制限してきたが、近ごろはケーキや大福餅まで食べるようになったと聞いている。私たちにとっては何でもないことが「人生初体験」なのだ。新鮮で、ほのぼのとした温かさが伝わってくる。生きているということは、こうしたささやかな楽しみがあるということだと知るとともに、部落差別と冤罪が奪ってきたものの大きさを思う。
 私もそうだが、狭山事件と石川さんの生きざまを通して部落問題を学んだ人は少なくはないし、生き方の問題として今もかかわっている人もいる。
 折しも、「人間を尊敬することによって自ら解放せん」と、「人生の熱と光を」求めた水平社創立からまもなく100年。この格好の舞台こそ、雪冤にふさわしい。
 東京高裁・大野勝則裁判長は、確定判決に対する疑問を受け止め、真相を明らかにするために事実調べを行ってほしい。私も微力を尽くしたい。